過去

手にとって確かめられる種類のもの

僕は車に乗っていると傲慢になってしまうことを説明する 実家の自動車を手放すことになった。乗る人がいなくなれば、乗られるものはいらなくなる。 数えてみると3台もあった。本当にいらないのか、と叔父は僕にたずねる。 夏至を過ぎたばかりの空気は生ぬる…

優秀なる彼の、人生の幅

自分の人生の幅が見えた、と彼は言った。 彼はとても優秀だった。とても優秀であり、すこし孤立していた。彼はそういう種類の優秀さの持ち主だった。「はば?」と僕は訊く。そう、幅、と彼は答える。 『俺は自分が、一般的に見て優秀で、有能であると知って…

くだらない名前

なんで星座ってあんなにあるの、と彼女は訊いた。『だって多すぎて憶えられないうえに、くだらないものまであるじゃない。かみのけ座とか、さんかく座とか。私はあまり知らないけど、そういう名前を聴くだけで、疲れが湧いてくるような名前の星座があるでし…

善人の世界で生きる人々

-まるで異国のようだ、と僕はおもう まるで異国のようですね、と僕は隣にいる人に声をかける。彼はすこしのあいだ、自分に声が掛けられてることに気付かなかったが、すこしして『そうかもしれないです』と笑顔でこたえる。そうかもしれないです、この店に来…

可能性のない世界で橋の上を歩くこと

それなりに頑丈な、世界ができたときからあるような構造物 その橋の上を歩いていると、川に飛び込んでしまう気がした。その橋は通路がせまかったが、子どもが二人並んで歩くくらいにはなんともなかった。なにかのバラエティ番組に出てくるほど古びているわけ…

手にとって確かめられる種類のもの

僕は車に乗っていると傲慢になってしまうことを説明する 実家の自動車を手放すことになった。乗る人がいなくなれば、乗られるものはいらなくなる。数えてみると3台もあった。本当にいらないのか、と叔父は僕にたずねる。 ええ、もう必要ないです、もともと…

酋長になるということ

その日は何人かで運動をしたあと、汗を流すために温泉へ行った。急に決まったことであったので都合がつかない者もいてけっきょく3人でいくことになった。一人が車を出して、温泉へ向かう。 そこにはいろんなタイプの湯があり、外には露天風呂があった。めい…

彼女の使命感

本当になんにもおぼえてないんですね、と彼女は言った。 はじめて卵が孵化する瞬間をみた子どものような表情をつくりながら、あけっぴろげにそう言った。もともと感情表現が豊かなのだろう。その表情には何度もおなじ動作を繰り返してきたような自然さと、そ…