空を見上げて興味深いなにかがあるかのようにゆっくり歩くこと

比較的ものごとを楽観的にとらえる傾向がある。それはおそらく僕の環境によるものだとおもうのだけど、ふとなにもかもをこなせるような気がしてしまう。それは気分がわるくなるものではないんだけど、もちろん僕になんでもできるわけではない。

だからときどき自分の不確かさをたしかめる。具体的にいうと空を見上げながら、後ろ向きに歩く。できるだけ長い距離を。慣れていないから平衡感覚がわからなくなる、自分がなにをしたいのかわからなくなる、自分の聴覚や視覚が信じられなくなる。そうして自分はこんなこともできないんだと自分に申しおくる。

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彼女の使命感

本当になんにもおぼえてないんですね、と彼女は言った。
はじめて卵が孵化する瞬間をみた子どものような表情をつくりながら、あけっぴろげにそう言った。もともと感情表現が豊かなのだろう。その表情には何度もおなじ動作を繰り返してきたような自然さと、その表情に対するかすかな自信がみえた。
「うん、そうだね、あまり何もおぼえてないとおもう」と僕は言う。「もともと物事をおぼえないタイプだし、最近は無理におぼえようと思わないから。」

彼女はそうかあ、というメッセージを的確に簡潔な表情で伝え、うなずく。

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